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Nの思い出

西に向かって、ずっと歩いてみたはいいけれど、こちらのマンションで行き止まり。引き返して別な道を辿るのだけど、やはりそちらもコンクリートの壁に阻まれて先に行けない。

仕方ないので壁を乗り越えて、薄暗い路地とも言えない、ビルとビルとの狭間を蠢いて前進していくのだが、そうした幾軒目かの窓から、テレビがもれ出ている。

見るともなしに、そのテレビにNが出ていることを知ると、
「ええ、西に向かってもですね、行く道がないんですよ」、とNはいう。
広げられた都市の地図は、血管のように脈動している。
「嘘だ」、と自分の側にいるNはいう。「信じるな」。

自分も嘘だと思う。ああして喋っているのは自分で、こうして歩いているのはNなのだから、嘘というのは明白なのだ。けれど。ただ自分でも嘘を嘘と信じ切れなくて、足を速めていく。

暗がりの小学校のグラウンド、フェンスの破れを潜り、城のような飾りつけのついた寿司屋の店先を過ぎて、道端で寝ている人々をまたぎまたぎ、白い灯りのともった商店街のアーケードを突っ切っていく、その果てに枯れた噴水があった。

そこにはAやらYやらTやらがいて、噴水を囲んで、何事かを囁きあっていた。自分も彼らの間に座って見ているうちに、噴水に水が戻ると、その中に、もう一組の自分がいることに気づいた。

「そう、その扉を開けて入るのよ」
とNの鋭い声が響くと、もう一人の自分は古ぼけた洋館の扉をぎちぎちと、体重をかけてこじ開けようとしていて、開いたその隙間から、二人は入り込む。庭の裏手にはもう寂れた小屋が置かれていて、その中から窓を開けようとする。

窓は木枠にしっかりと打ち付けられていて、取り外すのはたやすい作業ではない。ただ自分は一つずつ、その作業を続ける。木を強くはがすと、潮のにおいがしたように思えた。一枚ずつ剥がしていくのだが、そのたびにぼんやりとした外光が差し込んでくるのだった。

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